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撮影ディレクション

ベテラン編集者が教える「撮影ディレクション」カメラマンとの進め方

紙媒体の誌面やWebサイトを魅力的にする要素のひとつが、写真や動画です。最近ではストックフォトを活用する企業も多いですが、統一感ある誌面・デザインを演出できるのはやはりオリジナル写真でしょう。

しかし意外と難易度高いのが、撮影現場での「ディレクション」です。カメラマンが決まったものの、どのように必要な写真と撮影を伝えれば良いか戸惑う方も多いのではないでしょうか。

この記事では撮影ディレクションの具体的な工程やポイントを紹介します。これから撮影ディレクションに臨む方の参考になれば幸いです。

事前準備で撮影の成功が8割決まる?撮影ディレクション【準備編】

撮影でもっとも大事なのは、事前準備といっても過言ではありません。
経験とスキルのあるカメラマンをアサインすることができれば、正直現場での進行はお任せすることができます。ある程度くみ取って、良きように動いてくれるからです。しかし、この事前準備が不足していると、いくら経験があるカメラマンであってもフォローのしようがありません。

撮影日当日までに、以下のような準備を入念に行い、カメラマンおよび関係者に連携するようにしましょう。

  1. カット数確認
  2. 絵コンテ作成
  3. 撮影スタッフのアサインと日程調整
  4. ロケハン
  5. 香盤表作成
  6. 情報共有
  7. 忘れがちな事前準備

カット数確認

まずは必要カットをリストアップします。必要カット数によってスケジュールや予算が変わるので、重要な作業です。「デザインカンプ(デザインの完成見本)」「サイト構成やワイヤーフレーム」と照らし合わせながら、必要なカットをリストアップしてください。例えば会社案内パンフレットやコーポレートサイトなら「役員のポートレート」「主力商品」「本社ビル外観」「社員の仕事風景」などの写真が必要でしょう。

絵コンテ作成

必要なカットをリストアップしたら、それぞれのカットについて「撮影したい画像のイメージ」である絵コンテを作成します。関係者とイメージを共有するためです。素材写真の構図などを参考にして作成しましょう。絵が上手でなくても、「構図」「ライティングレール」「写真のトーン(あたたかみがある、力強い、クールなど)」などの意図が伝わればOKです。絵コンテの作成が難しい場合は、ストックフォトや参考サイトを使います。「写真に文字やロゴをのせる」などの場合には、文字やイラストの位置も入れておきましょう。

撮影スタッフのアサインと日程調整

撮影スタッフのアサインと日程調整も必要です。ひとりでは撮影ができないので、必要な協力者を集めましょう。

カメラマン選びにあたっては予算も重要ですが、基本的には「撮影したい写真のジャンル・トーンが得意なカメラマン」に依頼します。「どのような写真が得意か」は、カメラマンのポートフォリオで確認可能。普段から雑誌やWebメディアなどで「気になるカメラマン」を探しておくのもおすすめです。

依頼の打診時には「撮影目的」「写真のイメージ」「用途」を伝えましょう。「レタッチの対応可否」「二次利用の有無」など、契約関連の懸案事項も確認しておきます。

必要に応じ「モデル」「ヘアメイク」「スタイリスト」「フードスタイリスト」など、カメラマン以外の撮影協力者にも依頼し、日程調整しておきましょう。屋外撮影の場合は、雨天・荒天に備え予備日の日程も押さえます。

また撮影の日程調整にあたっては、写真を使用する広報物・Webコンテンツの制作スケジュールも考慮してください。

ロケハン

撮影場所を確認するロケハン(ロケーション・ハンティング)も重要な事前準備のひとつです。ロケハンは事前に撮影アングルを決めたり、光の入り方や撮影に必要な機材を確認したりするために行います。撮影環境によって必要機材も変わってくるからですね。

ロケハンの実施ポイントは以下のとおりです。

  • できればカメラマンに同行してもらう
  • 事前に現地の管理者・責任者等にロケハンの許可を得る
  • スタジオ撮影の場合も下見しておく

またロケハンでは具体的に以下のような作業を行います。

  • テスト撮影
  • 駐車場・移動経路・搬入経路・トイレの確認
  • 撮影の邪魔になるものがないかチェック

撮影の妨げになるものがある場合、移動させられるのか確認しておきます。「メイク室」「更衣室」「機材置き場」を使う場合は、必要なスペースや設備が揃っているかチェックしましょう。

ロケハンして「建物が広くて迷いそう」と感じたら、見取り図(撮影マップ)を作っておくのもおすすめです。

遠方でロケハン実施が難しい場合は「近隣の協力者に写真を撮影して送ってもらう」などの方法で対応することもあります。

香盤表を作る

香盤表(撮影当日のスケジュール表)の作成も重要です。香盤表があれば、スタッフが効率的に動きやすくなるからですね。とくに大人数での撮影では、香盤表が役立ちます。

香盤表に記載する内容をまとめました。

  • 撮影順・時間・場所
  • 写真の用途(ページ名、比率)
  • イメージサンプル
  • 必要な撮影小物
  • モデル

香盤表を見れば「動き方」や「必要なもの」がわかるようにしておきましょう。なお香盤表のテンプレートはインターネットで検索すると多数見つかります。

香盤表作成にあたり留意しておきたいのは、以下のような点です。

  • 最初のカットの所要時間は長めにする
  • シーンチェンジ・メイクチェンジ・移動の時間に余裕をもつ
  • 機材チェンジをできるだけ少なくする
  • (屋外の場合)雨天時の代案も用意する
  • (自然光を使う場合)日の出と日の入りの時間を考慮する

「機材チェンジを少なくする」「メイクや衣装チェンジの時間を少なくする」ためには、カメラマンやスタイリストからのアドバイスが役立ちます。

関係者に撮影計画を共有する

「香盤表」「カット表」などを撮影スタッフと共有します。クライアントがいる場合にはクライアントにも送付しましょう。事前に送付しておけば、撮影前に「このカットの撮影にはもう少し時間がかかる」「こんなカットも入れたほうがいい」などのフィードバックが受けられ、撮影当日の急な予定変更を減らせます。

また上長やクライアントに情報提供しておけば、「イメージと違う」といったダメ出しや苦情も防ぎやすくなるはずです。香盤表などと一緒に「撮影の案内状(駐車場の場所、当日の連絡先などを記載)」を送るケースもあります。

現場では各方面に気を配る!撮影ディレクション【当日編】

撮影ディレクション(当日)

撮影ディレクション担当は、撮影当日に以下のような仕事を担当します。

  • 事前ミーティング
  • 機材セッティングの補助
  • スタイリングのチェック
  • 指示出し
  • タイムキープ

事前ミーティング

まずは関係者を集めて事前ミーティングを行います。「最新の香盤表」「撮影マップ」などを改めて配布し、当日スケジュールを全員で確認しましょう。

「撮影スタッフからの不明点・疑問点」「連絡事項」「当日発生した変更点」なども確認します。「立入禁止エリア」「撮影現場にある取扱注意の品物」「禁止事項」などについても、注意喚起を行ってください。改めて撮影の目的を説明し、方向性の統一を行うのもいいですね。

機材セッティングの補助

撮影準備として、カメラや照明など撮影用機材のセッティングを実施します。基本的に機材のセッティングはカメラマンやそのアシスタントが行います。ただカメラマンにアシスタントがついていない場合もあるので、その場合はディレクション担当者も手伝いましょう。

スタイリングのチェック

商品や撮影小物をセッティングします。フードスタイリストなどをアサインしている場合は、イメージ写真をもとにプロがスタイリングしてくれます。

セッティングが終わったらテスト撮影を行うなどして、ディレクション担当者が「商品の見え方」を最終調整しましょう。

指示出し

撮影当日の重要な仕事として、指示出しがあります。撮影中には予期せぬトラブルが起きてディレクション担当者が判断を求められるシーンもありますし、カメラマンやモデルにお任せだとイメージ通りの写真が撮影できないこともあるからです。

撮影中は適宜「イメージ通りの写真が撮れているか(アングル、ピント、モデルのポーズや視線など)」「予定にはなかったが、撮影しておいたほうがいいカットがないか」「余計なものが写り込んでいないか」などをチェックし、必要な指示を出します。もしイメージ通りの写真が撮影できなかった場合、再撮影にはかなりのコストがかかってしまいます。初対面のカメラマンやモデルに指示を出すのは勇気がいるかもしれませんが、必要なことなのでしっかり伝えましょう。

タイムキープ

タイムキープもディレクション担当の仕事です。
撮影に時間がかかりすぎると、「昼間のシーンのはずなのに、もう外が暗い」「スタジオのレンタル料金が追加でかかる」などの失敗につながってしまいます。

スケジュールより遅れている場合には少し急ぐようスタッフに指示したり、先回りしてできる準備・片付けはないか考えたりしましょう。

撮影ディレクションを成功させるためのポイント

撮影ディレクションを成功させるためにはいくつかのコツがありますので、紹介します。

  • 撮影の目的を明確にする
  • 撮影対象について深く知る
  • イメージ共有を大切にする
  • 現場の雰囲気づくりと気配り
  • 原状復帰と片付け

撮影の目的を明確にする

まずは撮影の目的を明確にしましょう。ストックフォトを使わずに費用をかけてわざわざ撮影するなら、必ず「オリジナル写真でなくてはならない理由」「オリジナル写真でしか達成的ない目的」があるはずです。

例えば旅行情報誌に掲載する写真なら「旅行を考えている人向けに、あまり知られていない観光地の魅力を伝え、旅行の予約を促したい」という目的が考えられます。

この場合「アピールしたい魅力」「ターゲット層の年齢・家族構成・趣味・予算」などによって、「ロケーション」「写真のトーン」「起用するモデル」などが変わりますね。

写真で叶えたい目的を達成するために、「コンセプト」「ターゲット」「イメージ」を明確にしておく必要があります。

撮影対象について深く知る

「歴史」「ブランドコンセプト」「パーソナリティ」など、撮影対象について深く知ることも大切です。あまりにブランドコンセプトやパーソナリティと合わないイメージの写真だと、ちぐはぐな印象になってしまったり、読者に伝えたいことが表現できない可能性があるからです。

撮影対象についての理解が深ければ、構図やモデルのポーズについての指示も的確に出せますし、「なぜその構図にするのか」といった疑問へも答えやすいはずです。

イメージ共有を大切にする

イメージ共有も大切です。とくにカメラマンと「目指す写真のイメージ」が共有できていないと、仕上がった写真が「イメージと違う」ということになりかねません。

事前準備の段階でつくる「欲しい写真のイメージ」を、カメラマンや撮影スタッフとしっかり共有しましょう。構図だけではなく「写真のトーン」について伝えておくのも大切です。

またイメージを共有する段階で「光の入り方などの関係上、この構図・イメージは不可能」といった意見がカメラマンから出てくるかも知れません。その場合は意見をすり合わせながら理想に近いかたちになるよう調整します。

ディレクション担当者がある程度カメラの知識を身に着けておくと、カメラマンと具体的な相談がしやすいはずです。

現場の雰囲気づくりと関係者への気遣い

撮影現場の雰囲気づくりや関係者への気遣いも、撮影を成功させるためのポイントです。

とくにモデルが一般の方だと、撮影に慣れておらず動きや表情が不自然になってしまうことも。自然な表情や笑顔が写真の魅力になりますので、モデルがリラックスできる環境づくりが大切です。

にこやかにモデルに話しかけるなど、和やかな雰囲気をつくれるよう工夫してみてください。

またBGMや休憩用のお菓子があるとリラックスした雰囲気の撮影になります。必須ではありませんが、余裕があればぜひ準備しておきましょう。

現状復帰と片付け

屋外でも屋内でも、原状復帰と片付けをきちんと行うのが大切です。撮影終了後のマナーだからですね。

撮影前に元の状態を撮影しておけば、備品や小物を元の位置に戻しやすくなります。

最後に

撮影ディレクションでは、とくに事前準備が重要です。準備がきちんとできていれば落ち着いて当日に臨めますし、撮影もスムーズに進むはずです。

また自分ひとりで撮影するわけではないので、関係先との情報共有も重要となります。カメラマンをはじめとする撮影スタッフとは、撮影の「目的」「コンセプト」「ターゲット」などについてきちんと情報共有する必要があります。クライアントや取材先など、意向確認すべき相手ともコミュニケーションをとっておきましょう。

当日バタバタしてしまっては、写真のチェックがしっかりできない可能性もあります。当日は撮影に集中できるよう、事前準備は怠らないようにしましょう。